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2014.04.24
 月島区民館 
 「マンションでのコミュニティビジネスの可能性」
講師:千葉大学コミュニティ再生センター 副センター長
NPO法人ちば地域再生リサーチ 事務局長 鈴木 雅之氏
 
資料

 第27回勉強会は、約40名の方が参加しました。恒例の出席者自己紹介の後、鈴木雅之さんよりコミュニティビジネスについて講演していただきました。

 最初に、一般社団法人シルバーサービス振興会の「築古分譲マンションに居住する高齢者の生活とシルバーサービス提供等の実態に関する調査研究事業」(平成24年3月)報告書の紹介がありました。

 主に首都圏、中京、関西の築25年以上のマンションを対象に実施した調査によると、30%の管理組合が現在生活支援サービスの必要性を感じているとの結果でした。
 より高齢化が進む将来における必要性を尋ねると、「そう感じる」とする割合が56%まで高まります。
 必要性を感じる生活支援サービスとしては、現在・将来ともに「安否確認」、「緊急通報」、「家事支援」、「身体介護」のニーズが高いとの結果でした。
 昨今の行政等公共機関は財政難、民間企業は短期での投資回収かつ高収益を求められる環境にあるため、手間がかかる割に収益性が低いものは手がけません。
 市民ニーズにはそのような領域もあるため、そこは市民自らが取組まなければなりません。市民の活動は、ボランティアをまず考えますが、鈴木氏は長く継続させるためにはビジネス的手法を取る必要性があると提唱しています。

1.コミュニティビジネスとは

 「地域課題の解決を目的として、地域の住民が主体的に参加し、サービスの継続性を図るためビジネス的な手法をとること」と鈴木さんは定義しています。
 そのために、2003年8月に「ちば地域再生リサーチ」を設立したそうです。
 活動の舞台は、千葉市高洲・高浜地区4.2万人1.9万世帯、高齢化率20.6%のエリア。
 大学教員・学生が運営を牽引しましたが、2年目からは、職員・地域住民による運営に変わったとのことです。
 地域の一つの課題は他に課題を生み連鎖します。たとえば、高齢化→購買力の低下→商店街の衰退→買い物が不便→住民の転出・・・という具合。この課題解決の取組みを紹介していただきました。

2.買い物サポート

 「買い物は自力で行けるが、高層階まで持ち帰るのが大変」という人向けのサービスで、スーパーマーケットで支払を済ませた商品を自宅まで配達するサービスです。
 料金は、利用者から一回の配達につき50円、スーパーマーケットから1袋の配達につき50円(例:レジ袋2袋の買い物をした人の自宅へ配達すると、50円×2袋+50円×1回=150円の収入)としているそうです。
 スーパーマーケット側からも収入を得るところに工夫を感じました。
 しかし、パート採用した主婦の方が配達する時給は850円で、1日で多くても10件程度の需要しかなく、このサービス自体は赤字だそうです。
 ただ、配達先の利用者との接点から暮らしの困り事が見えてきます。常連の方は日頃購買するものが分かってくるので、後にその方々限定ながら、買い物自体の代行サービスも手掛けたとのことですし、掃除や片付けサービス、ゴミ捨てサービス等々サービスラインナップの拡大につながるそうです。

3.住まいのサポート

 リフォームを考えながら「そのうちに」と先延ばししている人は多いと思います。そのような人に対しては、リフォーム業者の紹介が支援になります。
 ここで業者から紹介料を得るというビジネスがまず考えられます。
 そればかりではなく、壁紙の貼り替えや手摺の取付けなど簡易なリフォームは業者に頼むのでなく、ホームセンター等から材料を調達してNPOの自営で実施しているそうです。
 買い物サポートで採用した主婦の方々が出来るように養成することで、勤務時間中の待機時間が減り、NPO運営の安定にもつながるそうです。
 住まいのサポートは、利用者の自宅で改修・修理する出張系修理サービスと、襖・網戸・椅子等を店舗に持ち込んで修理を実施する店舗系修理サービスがあるとのことでした。 他にも、ホームセンターと協働して開催するDIY講習会や、難しい工程はリフォーム業者に発注し仕上げ等の簡易な工程を自営する「ハイブリッド・リフォーム」というビジネスを実施してるそうです。

4.生きがいの場づくり
 住民が生きがいを持って暮らせる場づくりにもビジネスの種がありました。
 団地内のショッピングセンターは空洞化が進み空き店舗が増えています。
 外国人居住者向けの日本語講座や折り紙等の趣味の教室をまず始めたそうです。
 住民による住民のための拠点づくりを提唱して、ショッピングセンターのスペースを利用する団体の発足を促し、2年間で14団体の成立に至ったとのことでした。
 自分が持つ特技を生かす場があればよいと考えている人は多いのですが、その人たちを行動に駆り立てるような巻き込み方は大きな課題です。
 活動地域の人脈で知り合ったカルチャースクール運営経験のある方から情報を得て開設したのが、廃校を活用した団地学校だそうです。多彩な人材を講師陣として組織化し、住民が講師の住民参加型講習会を開催するのですが、参加希望者が3名以下の場合は休止、講師報酬は参加者数による歩合制とするといった方式で受講者集めを促進しているそうです。

5.憩いの場づくり

 空き店舗の活用方法として講座の他にカフェがあります。
 しかし、団地内ショッピングセンターには既にある店舗と競合する店舗の出店を規制する決まりがあったため、喫茶店形態での開設が出来なかったとのことでした。
 そこで、茶菓が主目的ではないインターネット・カフェを開設したそうですが、この種の形態は客足を維持することがたいへんで、その後、編み物カフェを開設するなど入れ替わっているようです。昨年開設した多世代交流を目的とした場所は好評を博しているそうです。

6.その他

 10年位前に実施した、学生に空き住戸をシェアハウスとして提供する事業も紹介していただきました。
 空き住戸所有者にとっては安い改造費で済み、学生には家賃が安いというメリットがあります。
 また、安い家賃ゆえに近隣住民の見守りも引き受けてもらえるので地域にもメリットが生まれます。
 しかし、今はやっていないそうです。所有者から部屋を借り受け、学生を住まわせるサブリース形式の事業でしたが、民間企業がシェアハウス事業に参入すると、貸す側・借りる側ともにそちらに流れ、初期の目的は達成できたとして打ち切ったそうです。
 ほかにも、管理組合支援や2階が空いているショッピングセンターを地元の芸術家たちのアトリエやギャラリーとする「コミュニティ・アート」を紹介いただきました。アートは発信力と集客力を秘めており、これによって団地の活性化を図る取組みを理解することが出来ました。

7.まとめ

 冒頭に紹介した一般社団法人シルバーサービス振興会の報告は、管理組合が対象の調査結果でしたが、同報告には団地居住者を対象にした調査結果もありました。
 これによると、居住者にも支援サービスを利用したいという意向が一定数あることがわかります。
 しかし、利用可能(この位の負担額以下なら利用する)金額は、月額2万円程度以下までで過半を占めています。
 高収益を望める市場とは考えに難く、簡単にはビジネスを継続できる環境ではなさそうです。しかし、何もやらなければ地域は衰退していくものです。今回の勉強会で、地域には存在する多彩な人材やばらばらに行われている多様な取組みを統合するマネージメントにビジネスの種があるということに気付きました。
 コミュニティを介して地域の人材発掘し取組みを積み重ねることにより地域の価値は高まります。さらに周辺マンションや周辺地域との相互補完によりスケールメリットが出ます。
 ボランティアが無責任ということは決してありませんが、ビジネスとして一歩踏み込んだ覚悟で取組むことが事業領域や規模拡大を図る手段として有効であることがよくわかりました。

【Q&A】
@ Q:あるマンションではヤングシニアがオールドシニアのサポートをしているところがあります。主婦の方がパートで働いているとのことですが、シニア層は採用していないのでしょうか?
A:パートはハローワーク経由で申し込んできた人を面接して採用しています。面接して、この仕事への適正がいま一つと思えたので断った人もいます。適正を見て採用されたのが主婦の方々でした。

AQ:コミュニティビジネスの可能性は理解出来ましたが、一地域住民の立場で考えるに、取り組むのはとてもハードルが高と思います。どのようにしたら始められるのでしょうか?
A:自分は、取組みを一緒にやる人を探すのではなく、出会った人と何をやるか考えて取組んできました。出会いが肝要です。

BQ:NPO法人の経営状態は?
A:実は、コンサルタント業務がメインです。
C Q:サポート業務の赤字を埋める収入源が無い人はどうしたらよいでしょうか?
A:自身が持っている技術を活用したらよいのではないでしょうか。営業や管理職といった経験を生かして。(企業と違って)利益を積み上げる必要はありません。小遣い稼ぎ程度でもビジネスとしての責任を持って取組むことが重要です。

(記録担当:大滝純志)
 
鈴木雅之さん講演の模様