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2016.10.20 月島区民館 

テーマ: 激動する民泊、法改正前にするべきことはこれ!
講 師: マンション管理士 飯田勝啓氏 

日 時:平成28年10月20日(木)18:30〜
場 所:月島区民館

 ご注意:以下の資料及び議事録は、勉強会時点のものです。民泊を巡る状況は日々変動しておりますので、ご注意下さい。
資料
2016.10.20
月島区民館
激白する民泊、法改正前にするべきことはこれ!
<管理組合での具体的対応策を知る>

講 師:マンション管理士/民泊ウオッチャー 飯田 勝啓 氏

 第47回勉強会は、約55名の参加があり、参加者多数のため参加者の自己紹介は省略し、「激白する民泊、法改正前にするべきことはこれ!」として、マンション管理士/民泊ウオッチャーの飯田勝啓氏に、2月の第41回勉強会での内容をさらに掘り下げたものとして、刻々と変わっていく「民泊」の最新事情とマンション管理組合の取るべき対応について前回よりもいっそう熱く語っていただいた。特に講演内容としては当日の最新の情報をもとに作成されたHOTなものです。

○民泊の実態と拡大の背景
 民泊の定義は、「自宅の一部や別荘、マンションの空き室などを活用して宿泊サービスを提供する」(厚労省、民泊サービスのあり方検討会)で、本日は、特にマンションの家主不在型に焦点を絞って説明。
 民泊のメリット、デメリットについては、前回のセミナー(本年2月25日)でほぼ理解されている前提で話を進める。
 民泊の仕組みについては、資料P5「民泊の実態を知る(1)」のとおり、ホスト(民泊事業者)、ゲスト(宿泊者)の間にAirbnbなどの民泊事業者があり、マンションの管理組合や近隣住民は蚊帳の外に置かれているのが現状。
 民泊の事業者としてはAirbnbの他にも多数あり、特に中国系の事業者(数社)が実績を伸ばしている。
 Airbnbのコンセプトは「暮らすように旅しよう」ということで単にホテルなどに宿泊するのではなく、現地の人と一緒に生活をするように旅をするというもの。このコンセプトはいいが、日本では現実にはそうなっていないというのが現状。

 民泊の対象になりやすいマンション、前回のとおり、好立地、規約に制限のない、共用施設が整い、監視の目のないところ。しかし、この条件に当てはまらなくても民泊として多数が利用されている。一度Airbnb等のサイトを検索して欲しい。民泊の実態としてさらに重要なことは、セキュリティの厳しいマンションのセキュリティを通り抜けること、これにいろいろ新手の方法が出ている。

 民泊の問題点は、騒音やゴミ出し、共用部分の独占使用などあるが、「宿泊行為」に対する心理的な問題が大きい。この心理面の壁をなくすことは難しいと考える。
 民泊のビジネスモデルのイメージは、「区分所有者=ホスト」だが、実際は「転貸借型」が多く、若い人も多く手を出している。民泊の拡大は、政府の規制緩和により進めやすくなり、今後民泊新法(2017年1月通常国会予定)により全面解禁に向かっている。また、訪日外国人も見込み以上に伸びている。マンションとして対岸の火事で済まなくなる。
 今後の展開の予想は、合法化によるホストの増加、ホテル不足で、ビジネスとして認知される。その結果、ホストの権利が強くなり、近隣トラブルや訴訟で泥沼化が予想される。マンションとしては手遅れにならないうちに手を打つことが必要。
 以上が、2月の勉強会の復習としての内容。

○民泊関連制度の動向
 今年3月からの民泊に関する動きは、4月1日の旅館業法施行令の改正(簡易宿所の位置づけ、フロント設置不要)が出されたが、その前の3月31日に厚生労働省から各地の保健所に通知文書が出され、行政としては一定の確認をして許可をするようにと、歯止めをしている。
 一方で、4月1日には合わせて台東区では旅館業法施行条例(営業時間中の営業従事者の常駐、フロント設置の義務付け)改正という、民泊解禁に逆行する条例が出されている。 これは旅館業の組合が強い一部の地域に限っている。
 そして、5月に規制改革会議の答申が出され、予想どおり民泊全面解禁の方向性が示された。

 規制改革会議の答申で、民泊制度はどう変わるのか?
 現行制度では旅館業法の規制を受けて自由には営業できず、設備なども整える必要がある。
 改正案では、「民泊は住宅」として旅館業法の規制対象でなくなり、手続等も簡単になる。但し、「上限日数」(後述)が縛り。


 新制度案では民泊を「家主居住型」と「家主不在型」の二つに分け、前者は届け出のみ、後者は施設管理者を登録することで行政の管理が可能になるようにと考えているが、本当に、苦情対応等に責任を持った対応が期待できるのだろうか。

 「上限日数」という考えがある。「住宅とみなす条件として営業日数を半年(180日)以内とすること」。これは世界の潮流に従ったものだが、180日では、期待できる稼働率は25%〜49%であり、それで採算が合うのか。飯田氏の試算によると合法民泊の損益分岐点は稼働率45%となりかなり厳しい水準。なお、Airbnbの公表している稼働率は58%。
 この「上限日数」については、旅館業界と不動産賃貸業界の水面下でのせめぎ合いが続いているが、来年の通常国会までには固まる(180日?)見込み。

 民泊運営者の選択肢としては、以下(1)〜(4)がある。
(1)新制度による民泊
(2)簡易宿所による民泊(現行法下)
(3)特区民泊
(4)ヤミ民泊(違法)

 (4)ヤミ民泊については、罰則強化(罰金の引上げ)で対応する方向で一定の抑止効果は期待可能。違法民泊の取り締まりは、関西では相当進んでいる。例えば京都市では、4月から通報制度を取り、約976件の通報から、営業中止の指導148件、現在指導中176件と成果は上がっているようにみえるが、本当にヤミ民泊を排除できるのか。ヤミ民泊(上限日数超など)をどう顕在化させるのか疑問を感じている。
 もう一つの展開は特区民泊が6泊7日から、2泊3日に緩和の方向が示され、特区民泊も侮れない対象になるので注意は必要。180日制限も抜け道は考えられる。

○マンション管理組合はどう対応するか
 まず、管理組合の、民泊に対する方針(「制限」・「容認」)を決めること。これを決めるのは管理組合で、その方針に応じた対応が必要。

 方向性が「制限」の場合、3つのステップでの対応が必要。
 民泊ホストの特徴は、(a)確信犯、(b)しらを切る、(c)「トモダチ」だと言うetc。
 ハウスルール(宿泊客に守って欲しい部屋のルール)で「(宿泊客が)民泊であることを伏せること」〜財産権の侵害と開き直る輩まで、それに応じた対応が必要。
 マンションとしては「民泊は悪い訳ではなく、マンションの生活ルールとして民泊が禁止されていることを説く」必要がある。

 【ステップ1】の事前対応として具体的に何をするか、まず1番に「管理規約」、「専有部分の使用に関する細則」の制定、次に館内掲示や文書配布、そして重要事項調査報告書(不動産売買または賃貸時の契約資料)に用途制限として「民泊禁止」を加えておくこと。
 なぜ、事前対応が必要なのか?現在、民泊解禁に向けた準備が着々と進んでおり、民泊に関する各検討会では「マンション管理組合は規約で自衛する必要」、「現行規約では容認、禁止には規約改正が必要」との見解が示されている。

 そして、民泊新法で民泊は「住宅」と位置づけられることから、規約の「専ら住宅」では排除はできなくなる。
 平成28年版の改正標準管理規約では対応できず独自に防衛する必要がある。
 国土交通省から民泊禁止対応規約を発表するとしているが、まだ公表はされていない。 規約で「民泊禁止」を明確に禁止する必要。標準管理第19条で、転貸の際の「誓約書」が規定されているが、賃貸借契約を行う場合、入居前に「誓約書」を必ず提出する規定が必要。可能な限り具体的、網羅的に明文化が必要。「専有部分の使用に関する細則」を設け、鍵の仕様変更禁止や暗証番号の開示を規制することも必要と考える。

 【ステップ2】として、日常管理での監視はどうするか。管理規約の規制だけでなく日常の管理は重要。管理組合と管理会社、居住者(組合員)の三位一体となった協力が重要。
 協力して、人の出入り、メールボックス周辺での不審な行動や、不審なキーボックスのないことを確認するとともに、インターネット上の記事の確認が必要。インターネット上では住居表示等物件の特定を敢えて困難にしているので、掲載写真等細部のチェックを要する。証拠とする場合は(差し替えられてしまう前に)ネット画面をプリントしておくことが重要。

 【ステップ3】の民泊発生時の対応として、まず「疑いあり」の場合、管理員等の協力要請、対象専有部分の確定、証拠の確保、居住者からの通報、苦情収集が必要で、「苦情」は紛争時の解決にかなり有効なので大事な情報となる。
 そして、民泊実行が特定できた段階で、まず「事実関係の確認」「民泊を行っていることの事実」を示しその違法性(現在なら旅館業法、将来は…)を認めさせることが必要。「規約違反」は制度が変わっても重要。そして、民泊中止要請を行う。

 中止要請に従えばいいが、要請を拒否された場合、ホストが賃借人の場合は、賃貸人である区分所有者に連絡し中止要請をさせる(場合によっては賃貸借契約を解除)、内容証明郵便送付など。
 なお、「立ち入り請求」を拒否された場合は、「ゲストとして入室する」方法も。さらに、サイトのレビューを利用(民泊サイトの評価で「ここは民泊禁止である」と記載し、ゲストを付きにくくする)などがあるが、最終的には保健所への通報を行う。

 保健所は通報されると、旅館業法の許可がなければ指導文書を送付し、最終的には刑事事件。しかし、保健所に通報しても進まないケースもある。例えば、京都市の場合、976件中352件は営業者の特定ができないとして進まない例も多い(正しい住所や本名で民泊事業が行われていない)。

 それでも駄目なら、区分所有法第57条による「共同の利益に反する行為の停止等の請求」や、第60条による「占有者に対する引渡し請求」などの実力行使を行うことに。

 現行制度の下、大阪地裁の判例では、「専ら住宅」規約の違反や他の迷惑行為により「差し止め」判決が出ているが、新法の下での判決はどうなるかは不明。
 また、民泊に使用された後での規約改正も、有効性に不安がある(判例で事務所使用禁止の規約改正を行ったマンションで、改正前から事務所利用していた占有者からの提訴に対し管理組合側に不法行為を認めた例がある)。
 民泊を規制する方向ならば、規約改正と毅然とした対応について、とにかく早く手を打つことが必要。

○民泊を認めるとしたら…
 民泊すべてが悪ではないので、例えば家主居住型であれば、例えばホームステイ、子供の巣立った後の老夫婦の生きがいとしての国際交流など、認めてもいいものはあると思う。そのような共存の考え方もあるが、もしマンションでの方向性が固まっていないのであれば、とりあえず禁止しておく必要がある。

○民泊のこれからの展開は
 大阪府における特区民泊2泊3日への緩和が10月中の予定。
 11月には厚生労働省が初めて民泊実態調査を予定(内容は不明)。違法性の判断や取締強化の方向など何らかの対応が見込まれる。
 そして、1月の通常国会で民泊新法が審議され、国土交通省の民泊に関する標準管理規約もいずれ公表されると思われるが、それを待っていては遅く、先手を打った対応が必要。
 民泊への対応は、特に法律で解決することは難しい。マンション管理組合の立場で実態が分かっている人の協力で解決していかなければならないと考える。

以上

飯田勝啓 先生