mckhug.com
    

2016.01.27
 月島区民館 
講師:東北工業大学 准教授 小杉 学先生

資料:郊外部に立地する高経年マンションの経営的管理
2016.1.27            
月島区民館                  
郊外部に立地する高経年マンションの経営的管理
<京都市・ユーコート/千葉市・西小中台団地>

講 師:東北工業大学 准教授 小杉 学 先生 

 第40回勉強会は、約45名の参加があり、恒例の参加者の自己紹介のあと、「郊外部に立地する高経年マンションの経営的管理」として、京都市のユーコートと千葉市の西小中台団地を例に、東北工業大学准教授の小杉 学先生に高経年マンションが生き残っていくための経営的管理について語っていただいた。

 郊外部に立地しているマンションが高経年化すると、若い人が入らず高齢化が進み、賃貸化も進む。マンションの管理を行う担い手が不足したり、活気がなくなったりして、放置しておくと負のスパイラルの結果として管理不全マンションになっていくおそれがある。まだ例は多くはないが、うかうかはしていられない。

 マンション管理の基本は維持管理、運営管理、生活管理が3本柱と言われているが、郊外部に立地する高経年マンションでは、これだけでは十分ではなく、プラスとして経営的管理をやっていかなければ生き延びていくことが難しいのではないか。
 そこで必要になる経営的管理とは、まず選ばれるマンションとしての魅力付けをすることと、入退居のコントロールを間接的に行うこと、管理組合自らが組合員のマンション管理への参加意識を引き出すことができるような雰囲気や仕組みを作っていくことと言える。

 今日の狙いは、経営的管理を行うにはどういう風に考えたらよいか、まず、京都市のユーコートを例に考えてみたい。ユーコートは、京都市の洛西ニュータウンにあるコーポラティブ形式で建てられた48戸のマンションで、1985年に完成、築約30年。
 このマンションは、ディベロッパーが建てたマンションを購入するのではなく、更地の状態から入居希望者が設計の段階から話し合って創り上げたものである。
 建物を作る過程から、参加者の話し合いの場があることが、自主性の高い管理組合が期待できるということが大きなポイント。
 しかしコーポラティブ住宅だからと言って、普通のマンションに関係のない話ではない。コーポラティブハウスも建物が建ってしまえば普通のマンションで、最初は意識が高くても、時間がたつと管理組合が低調化することがある。

 ユーコートは竣工する前から太鼓のサークルが出来るなど、活発なコミュニティのあるマンションとしてスタートした。
 しかし、このユーコートも、2005年(築20年)の時点の調査では、高齢化が進み、居住者数が3割ほど減少し、第二世代(入居時の子どもたち)は半減していたが、定住率は高く、親族以外に転売した例は48戸中3戸のみ、皆が好きで住み続けているという状況が確認できた。
 築25年の時点では、ユーコートの第二世代が孫を連れて帰ってくるような状況で、一方で近くのニュータウンでは空き家が目立ち始める状態であった。

 ユーコートの特徴は、広い中庭があり、動物と共生できるミクストコミュニティ(多世代共生型集住)で、世代間の交流があり、季節の行事が行われている。
 このようなマンションはほかにもあると思うが、特にユーコートでは2008年ころから、第二世代がUターンして戻ってくるようになり活気が戻り始めた。
 2005年でUターンしたのは2世帯だったが2010年では5世帯になり、近くの賃貸住宅に帰ってきているという例もある。これも、管理組合が間接的に促していることで起こっている。

 ユーコートでは、管理組合として通常の維持管理だけでなくアメニティ(精神的な快適性)を追求し、マンションが成長することを目指したマンション管理がなされてきた。そしてその意識が居住者に定着している。
 アメニティを追求することで、住民間に連帯感が生まれ、お互いに必要な存在として認めるようになった。
 楽しい環境を維持することが建物管理にも影響を与えている。
 ユーコートの住人に言わせると、ユーコートを大切に思う気持ちが建物を長持ちさせている。こういうことが管理組合への参加意識を高めている。

 ユーコートの管理組合は、理事8名1年交代で、全員が理事を経験している。引き継ぎ書類もしっかりと整備されており、実績を積み上げることで、第二世代や女性の理事長も誕生している。
 総会には48世帯中42世帯が参加している。一方でユーコートには自治会はなく、地域の自治会に加入している。
 一般のマンションでも、アメニティの追求を含めた取り組みを少しずつでも始めていくことで、(郊外部に立地する高経年マンションの経営的管理の)可能性があると考えている。

 アメニティのもう一つは「安心感」、25年間の転売や賃貸もマンションとしては少ない。
 ユーコートは、入退去により活発なコミュニティが薄れてしまう不安の期間が12年間あり、その対策として規約を改正して入退去のルールを作り上げた。
 規約には元から「各区分所有者は売却について事前に組合に通知すること」を入れていた。もちろん、強制できる条項ではないが、これを元に「売却について組合と十分に話し合い、その方法についても一緒に努力をすること」を加えた。

 住宅の価格についても実勢価格の1.1倍(0.1倍は環境を良好に維持する努力をしている結果)とすることを申し合わせている。

 具体的な管理組合のコントロールの仕方は、まず、「退去希望者が管理組合に通知」し、「組合は『住宅対策委員会』を設置」して、組合全体で入居希望者を探す。
 新入居者にはユーコートのルールを説明し、了解を得た上で、「入居者決定の過程を公表」し、「新入居者を総会で紹介する」という手順を行っている。

 新入居者は大体がユーコートのファンとなっている。法的な拘束力はないが、このルールを居住者が理解し、このルールが守られることが大きな「安心感」につながっている。
 一般の高経年マンションにおいても、住宅売却に無関心であってはならないと言える。また、購入者はユーコートの第二世代を優先している。このような取り組みは全員加入の管理組合だからできる事と言える。もちろん、建設前から話し合いがあったとは言え、最初から分かっていたことではなく、管理組合の活動を通じて身に着けていったこと。

 もう一つユーコートが大切にしていることは「熟議」。
 ユーコートの合意形成は全員合意が基本となっている。反対の中に大切な視点があり、多数決では結果的に納得のいかない人を増やすことになるため、この方が合理的だということを経験から学んだ。
 「熟議」があることが管理組合への信頼につながっている。これも試行錯誤の結果である。
 ポイントは、早い段階に「顔見知り」の関係が作れたことが大きい。
 長年の経験から、論議の進め方など「話し合いの作法」が共有されたこと。他人に干渉しないが無関心ではない、皆の価値観がそれぞれ異なる中で、自分と他人との距離を測れる人がいること、これがユーコートが育んできたことで、柔軟な集住を支えている。
 
 最初の話に戻り、経営的な管理、選ばれるマンションとしての魅力付けということをユーコートで考えると、多くのアメニティ、共に住む安心感、管理組合に対する信頼感、これがあるから、第二世代も安心して戻って来られる。
 また、入退去のコントロールができていることで、共感できる入居者が集められ、管理組合活動への参加意識の向上、熟議による信頼感、皆が参加する負担の軽さ、通常の維持管理だけでなくアメニティ形成などもあり、管理組合活動の楽しさから連帯感が生まれている。

 このユーコートの特殊解を、どう一般の高経年のマンションに応用するか、簡単ではないが、恩師の延藤先生が提唱された「愛着的管理」があると思う。それは…

 (1)各自が住まいと環境をより良くし、人間関係を豊かにしていく「セルフコントロール」、(2)制度を補完し自主的協同的に集住のメリットを育て上げる「ボランティア」、(3)生活者の要求の変化にあわせて生活空間の価値を向上させる「インプルーブメント」といったところがマンション管理の基本。

 延藤先生はこれを「統制的管理」と言っている。これを元に「経営的管理」を考えると、(a)「熟議」に加えて、(b)交流基盤の形成(イベント企画など)、(c)入退去のコントロール、(d)共同支援居住(アメニティに当たるもの)、(e)住環境整備(インプルーブメント)。これらをどう組み合わせるかで、個性があり、成長性のあるマンションができると考えている。

 これを机上で話しても仕方ないので、実践編として、西小中台団地で試みているが、あまり思うようには行っていない。

 西小中台団地は総戸数990戸の旧公団分譲団地。自主管理で、コミュニティもしっかりした団地であったが、高齢化が進んでいる。建替え計画もあったがディベロッパーが付かずうまく行かなかったところで、延藤先生に相談があった。海外の「再生」という言葉が入ってきた時期だったので、2002年から「団地再生委員会」を結成していろいろと検討して行った。

 高齢者から、「住み続けられるかどうか不安がある」との意見があり、集会所を建替えてデイサービス付きにしようという検討を始めたのが2009年で、アドバイザーとして参画した。
 アンケートを取ったところ、高齢者支援の設備と合わせて、気軽に集まれる場所が欲しいとの声があった。
 この集会所建替えの検討とは別に、不動産屋さんに配布するパンフレットを作成した。そこには、築年数や間取りばかりではなく、アピールできる内容をまとめ、それを作り置いてもらった。
 これは不動産屋さんにも好評であったが、これも入退去のコントロールに当たると思う。
 高齢者向きだけでなく、子育て世代にも喜ばれる環境が必要ということで、2012年に臨時総会を開催し、集会所建替え議案を諮ったが、3/4の同意が得られないため否決となり現在は計画が中断している。
 
 臨時総会の参加は771(戸数と頭数は同じ)で、反対を28以下に抑えないと成立しない(990×3/4<743…771−743=28)が、反対99(10%)で否決された。否決になったとはいえ、反対者が多かった訳ではなく、委任状を出さない人が多かったことも原因と考えられる(990−771=219…約22%)。

 その年に行った簡単な規約改正も3/4の可決ができなかったが、規約についてはその後2回総会に提案してようやく成立した。
 この際は参加826、反対41で、規約に関する反対数は過去と変わらなかったが、総会参加者の開拓で成立させることができた。

 集会所建替え議案に関する反対理由は、管理組合への不信感と、費用負担への不安で、組合員に十分な説明ができなかったことがあると思う。
 現在、団地再生委員会に、若い世代のグループ「にしこ」があり、集会所建替えに再チャレンジしようとしている。

 西小中台団地の経営的管理をまとめると、選ばれるマンションとしての魅力付けとして、集会所建替えと中央広場のリニューアルへのチャレンジ。
 入退去のコントロールとしては、不動産屋さん向けのパンフレットの作成(改訂は今後の課題)。
 組合活動への参加意識の向上は最大の課題であり、信頼される管理組合をどう作っていけるかを検討しているところ…以上で講演終了。


主な質疑と会場からの意見、等

Q:団地がビジョンを持つことが必要と思うが、西小中台団地のビジョンは?。また、実際にスポーツジムなどの経営を行っているマンションがあるがどう考えるか。

A:現在ビジョンとして合意形成できているものはないが、ビジョンがないと、集会所建替えも勝手な受け取られ方をして合意に至らないため、理解を得るためには重要と考えている。経営については、お金をどう回すかではなく、いろいろ考え議論して行う必要があることをもって経営的管理と言っている。
 
 廣田代表から、経営的管理を行っている例として西京極大門ハイツの一般マンションに比べたら突出した取組みを紹介(耐震改修、外断熱、窓の断熱化、太陽光発電、隣接地買収、カフェなどの活動など)。
【2013年6月マンションコミュニティ研究会資料】
http://www.mckhug2.com/20130618siryou_01.pdf

意見:「多数決では納得できない人を増やすだけだ」というフレーズに感銘を受けたが、実際は総会の出席者(母数)を増やして議案を通すのが実態。十分な説明もできないまま総会に進む例も多くある。確信的に説明を行わない理事長が居る半面、理解してくれるだろうと何となく諮った結果流れてしまう例を見ているが、もっと成功事例を伺いたい。

講師コメント:前半の合意の話は、試してみて変化があることが重要。後半の説明は、反対者を少なくすることが目的ではなく、無関心者に、もう少しうまく説明することが必要。少しアドバイザーがいると、対応もうまくなると考えている。一生懸命やっていると困った人への対応が編み出され、蓄積されていく。参考事例を積み上げても表面だけしか見ないことになることがあり、「どう考えて活動するか」が重要と考えている。

講師コメント:西小中台団地では確かに施策がうまく行っているわけではないが、取り組んできた経験が積み重ねられ、活動そのものが、団地を支える力になっている。

そのほかにも、活発な論議があり、本日の勉強会を終了した。
小杉先生
会場の模様 
 京都市:ユーコート/千葉市:西小中台団地を題材に発表