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2015.07.22 中央区立女性センターブーケ21
 
大震災に備えるエレベーター対策

講師:(株)i−tec24 佐藤 直樹氏

【プレゼン資料】地震発生、エレベーターは!
 
 第37回勉強会は、マンションコミュニティ研究会理事でもある(株)i-tec24の佐藤直樹さんの講演です。
 i-tec24は独立系のエレベータ保守会社で、マンション向けにエレベータ閉じ込め救出訓練を実施してきました。今年5月30日の夜に発生した小笠原地震(都内震度4)で多くのエレベータが停止したことで、その活動がにわかに注目を集め、多数のマスコミの取材に協力し、テレビ出演もしました。

 今回の参加者は16名です。1時間短縮版での開催のため、恒例の参加者自己紹介は省略です。

 小笠原地震のエレベータ被害としてマスコミが大々的に取り上げたのは次の4点です。
・約2万台のエレベータが「緊急停止!」
・復旧までの見通しは不明
・高層ビルでは上階に閉じ込められた
・14件のエレベータ閉じこめがあった

 「緊急停止」という言葉は、閉じ込めや危険な状態を思わせますが、地震時管制運転装置が正常に動作して最寄階へ着床して乗客が降りられるように停止した状態です。
 地震時管制運転装置には、2種類のセンサーがあります。初期微動を検知するP波センサーと本震を検知するS波センサーです。初期微動を検知すると、本震が来る前に最寄階に停止します。
 その後本震を検知しなければ自動的に復旧して動き出します。本震を検知した場合は、運転を休止して保守会社等の技術員が安全を確認した後に復旧させます(自動復旧はしない)。本震の衝撃で損傷が起こっている可能性があるため、損傷なないこと人手で確認するまで動かさないという考え方です。
 もちろん、P波センサーやS波センサーが付いていないエレベータではこのような動きはできません。自身のマンションのエレベータへの地震時管制運転装置の設置状況を確認しておきましょう。

 高層ビルでの生活にはエレベータが欠かせませんが、緊急停止したからといって上階に閉じこめという言い方は正しくありません。階段で下層に移動は可能なので、「上層階に閉じ込め」ではないのです。

 地震時管制運転装置があれば、エレベータ内への閉じ込めが起こらないかというと実はそうでもありません。停電によりエレベータが即時に停止して閉じ込められることがあります。この対策として停電時自動着床装置があります。この装置は、停電すると非常用のバッテリーや自家発電装置に切替えてゆっくりとした速度で最寄階に着床させます。
 また、ドアスイッチの不具合で閉じ込めが起こることもあります。エレベータは全フロアの扉に、閉まるとONになるスイッチが付いています。全フロアのドアスイッチがON(閉まってる)でなければエレベータは動きません。ほこりや異物が挟まったりして、スイッチがONにならない扉が一つでもあるとエレベータは動かなくなります。逆に、地震時管制運転装置は、最寄階に停止してドアが開いたことを、どこかのドアスイッチがOFF(開いている)になることで検知します。エレベータが着床する前に地震の揺れ等で一つでもドアスイッチOFFになると、着床したと勘違いして停止してしまい閉じ込めが起こることがあります。

 閉じ込めや緊急停止が起こると、保守会社の技術員の出番となるわけですが、人員は限られています。このため、優先順位を付けて対応しなければなりません。
 まず、人命にかかわる閉じ込め救出が優先されます。閉じ込められた人を全て救出してから復旧にとりかかるわけですが、復旧にも官公庁、病院、高齢者施設の優先順位が高く、残念ながらマンションは後回しになりがちです。また、複数基のエレベータがある場合は、1基だけ復旧して残りは全てのビルで1基復旧させた後でということもあります。
 1基のエレベータの復旧に要する時間は、10階建で30分程度です。しかし、損傷があればその修復の時間が加算されるし、修理部品の在庫がなければその調達時間(期間)も必要です。
 救出・復旧作業を進める途中で優先順位が高い対応が飛び込む可能性があり、作業に要する時間も現地で確認しなければわからないため、個々のエレベータの復旧見込みは不明ということになります。

 エレベータは生活に欠かせないものであり、その保守業務に責任感と使命感を持つ技術員はたくさんいます。しかし、土日休日、特に盆暮れ正月・ゴールデンウィーク等長期の休日は、控えている人員が少なく駆け付けに時間がかかります。また深夜は駆け付ける交通手段が無いとか、飲酒して運転出来ないといったこともあります。震災が発生する曜日・季節・時刻によっても閉じ込め救出や復旧までの時間は変わります。

 このため、管理組合が長時間の閉じ込めや長期の停止へ備えることが重要となります。
 閉じ込めへの備えとして、エレベータ内に飲料水・食料や携帯トイレ等を詰めた備蓄BOXを設置する、閉じ込め救出訓練を受けておくといったものがあります。
 エレベータの長期停止に対しては、高齢者や身体障害者等の要援護者を事前に把握し、共助によって生活環境低下を補うコミュニティを形成しておくことが備えとなります。

 エレベータが停止すると住民は早く復旧してほしいあまり、直接、保守会社に故障通報しがちです。既に通報済であるにもかかわらず、同じマンションの別の住民からの通報が後を絶たないという現象が起こります。通報が済んでいることを停止中のエレベータ付近に貼り紙をしておくことで、無駄な通報がなくなり、保守会社がその対応から解放されて復旧に専念できるようになります。ぜひ、実践してください。

【Q&A】

@ Q: P波センサーやS波センサーを装備しているエレベータの割合はどのくらいか?
A: 個々の管理組合にとって、エレベータ全体の装備率に意味はありません。肝心なのは、自身のエレベータに「装備している/していない」を知ることであり、その結果に応じた対策をとることです。

A Q: 地震時管制運転装置を装備していないエレベータは地震が起こった時にどのような危険を伴うのか?
A: 揺れにかかわらず、指定の階に到着するか壊れるまで動き続けます。おもりがレールから外れて人が乗った箱の上部を直撃する等、乗っている人の命にかかわる壊れ方をする危険性もあります。

以上

   佐藤直樹氏