マンション100年化を進めるために
講 師:マンション100年倶楽部 事務局長 西松みずき氏
第32回勉強会は、約35名の参加があり、恒例の出席者の簡単な自己紹介の後、「マンション100年化を進めるために」として、マンションの大規模修繕などに関わられて、マンションのコミュニティ形成に関する問題にも深く造詣のある、マンション100年倶楽部事務局長の西松みずき氏をお迎えし、マンションの長寿命化に必要なマンションのコミュニティの重要性についてお話していただいた。その後、「マンションのコミュニティの活性化」についてグループ討議を行い各グループの発表を行った。
まずは、マンション100年倶楽部の紹介として、マンション100年倶楽部を共同運営しているヤシマ工業についての紹介を含めて、マンションの現状を絡めて話された。
マンション100年倶楽部については資料の「マンション100年倶楽部の理念・目的」に書いた通り。マンションのストックは平成25年度末で600万戸を超えた。かつてマンションはいずれ一戸建てへと進む通過点の住宅とされた時期もあったが、現在では、特に首都圏ではマンションや団地に住まうことが住宅の主流となっている。
また、通過点の住宅として考えるのではなく、そのマンションに一生住み続けたい、愛着を持てるようにしたい、資産として持ち続けたいとの声を多く聞くようになった。
この大切なマンションが40年、50年で古くなったといわれ取り壊されてしまうことへの悩みがある。「建替え」というキーワードはあるが、実際に建替えが実現するのは都内でも稀なケースで、新たなローンの負担なども発生する。環境負荷の面からも、日本の新築神話は成り立たなくなってくる、ということからマンション100年倶楽部を立ち上げた。
マンションを100年保つためのノウハウや、どうやって100年保つことを一緒に考え、学ぶのかの交流の場がまだまだ少なく、情報共有の場としてのマンション100年倶楽部を立ち上げた。定期的な情報発信や勉強会の開催などを行っているが、好評なのは管理組合の交流会。セミナーや交流会の開催に留まらず、理事会へ出席しての説明など各種のサポートを行っている。
このマンション100年倶楽部を運営しているヤシマ工業株式会社は、1804年創業、現在で210年になる、当初は柿渋(日本古来の塗料)問屋で、現在はマンションの改修事業を行っているが、建物を壊さないで守るという意志を現在に受け継いでいる。やっていることは壊さないことへの挑戦と言える。
続いてマンションの現状と課題についてで、マンションのストックは冒頭で話した通り増加の一途だが、一方で日本の人口は減少傾向にあり、総務省調査(平成25年度)で総住戸数が総世帯数を上回っている。
住まう人口以上の住宅が作られ続けているのが現状。今、一番問題になっているのが「空家」で、全国的にみると、平成25年度で13.5%と過去最高になり、今や7軒〜8軒に1軒は空家といわれている。この空家にならないためにどうするかがマンションに課せられた課題といえる。
特に、賃貸住宅では空家率は悪化していて5軒に1軒が空家といわれ、このままいくと四半世紀(25年)後は、空家が住宅の4割を超えてくるのではないかと言われている。
東京23区内といえども空家は資料の通り増加しており、これからも悪化の一途をたどると見られている。特に築年数が古いから空家が多いのではなく、過剰供給が続き、築年数にかかわらず空家があるのが実情。
現在起きていることは、供給過剰と急速に進む少子高齢化に伴い600万戸を超えるマンションの2極化が進んでいること。築年数の古いマンションでは、空室が目立ち改修もままならず、スラム化しているものがある一方で、古くても資産価値が守られている(住みたい人がいる)マンションがあるのも事実と言える。
ここからは、マンション100年化は具体的にどう進めていくかについてです。マンションの価値があるということは、古くても住みたい人いること。ワインのように年数が経っても価値が落ちないマンションをヴィンテージマンションとして表現している。
価値あるマンションを作るためには、マンションの管理を経営として考えてほしいと言っている。経営として考えると、マンションの価値作りのために、まずビジョン(理念、理想)を有すること、次にコミュニティ、人材育成など、3つ目が建物・すまいづくり(ハード面)があるといつも話している。ハード面はしっかりやっているマンションは多いが、ビジョンとコミュニティの二つが不足しているケースが多い。
マンションにとって、築45年から50年で直面するのが世代交代の壁(50年の壁)。若い世代に住んでもらえるマンションをつくることは重要なことで、マンションの大先輩の方々だけで理事会等を運営するのでなく、若い人にもマンションを考える機会を作ることが必要。
次世代につなげていけるマンションをどう作るかといったビジョンを持つことが重要。次世代に引き継げるかどうかで先ほどの2極化が発生する。マンションの価値はこのハードとソフトと魅力の3つの項目の足し算で成り立っている。
マンションは管理(会社)の実態を見て買えと言われていたが、これからの時代はマンションの管理組合がどのようなビジョンを持ち、どう活動しているかが購入のポイントになると考えられる。「マンションは管理組合を買え」というキーワードも今後重要。
これからはマンションのコミュニティについて。マンション100年倶楽部でも建物を維持するだけでなく、コミュニティこそがマンションを作っていくと話している。これから、マンションの価値としてマンションの管理組合が注目されていく中で、コミュニティの有無によってそのマンションの外からの見え方が変わってくる。
マンションコミュニティに関するアンケートの結果では、コミュニティについて特に活動していないマンションが63%、理事会等で審議しているとの回答が29%と、まだ、積極的にコミュニティに取り組んでいるマンションは少ない。
自治組織としても管理組合しかないとした回答が70%と、まだまだ地域とのつながりが薄いことが読み取れる。
マンション100年倶楽部でもマンションの行事の手伝いを行うことはあるが、このアンケートでは、マンションで年1回以上行事を行っているとの回答は半分以下、皆さんのマンションではいかがでしょう。防災や清掃など様々な活動を通じてコミュニティができあがってくると考えられる。マンションのコミュニティについて、「防災」という切り口は3.11以降活性化のポイントになっているケースが多い。
マンションに魅力を付けていくためには、人のつながりがあることからできる安心感、信頼感が大切。こういった取り組みが、マンションの外から見ると手入れの行き届いたマンションに見えるポイントになる。コミュニティを作るためには「意識の共有」と「行動の協力」が重要な課題になる。コミュニティがどうあるべきかを話し合える場があるかないかがマンションの価値に結び付いていく。
コミュニティ作りをマンション内で考える時には、やはり将来的な計画を考えることが必要。ステップ1のマンション内のコミュニティから、ステップ2、ストリートコミュニティ、ステップ3、地域内コミュニティとへと発展させていくことで、マンションの価値は守られていくと考える。ストリートコミュニティは欧米ではあたりまえのこと、日本でも取組みが始まってきている。地域内コミュニティとしての活動は地域ごとの交流会などを利用し他のマンションや行政との関係を作り上げる支援なども行っている。
以上で解説を終り、グループ討議に移った。3人一組のグループで「自分のマンションのコミュニティの活性化」について討議し、各チームの発表を行った。
サークル活動、世代間の交流、見守り、ホームページ、自治会との関係、ビジョンづくりなど、さまざまな観点からの活発な討議が行われたことが、各グループから報告された。
最後に廣田代表のコメントとして、高経年マンションでは、行事を何をするか考えることからはじめるより、まずビジョン作りのワークショップから入ることで効果があがる、その中からお互い仲良くやっていくきっかけが見つかる、ビジョン作りが人間関係を作っていくものと考える、という話があり、本日の勉強会を終了した。
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