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2014.07.31 月島区民館 |
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知っているようで知らないマンションの保険の話 〜厳しくなる加入条件、手遅れにならないうちに考えよう〜 講 師: マンション保険バスターズ 西澤健之(けんし)氏 消費生活センター相談員 中川千恵子氏 管理組合理事長 坂田英督(えいすけ)氏 |
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資料1:マンション保険バスターズ 知っているようで知らないマンションの保険の話(西澤) 資料2:マンション保険バスターズ マンション総合保険 新規契約引受制限の推移(西澤) 資料3:消費生活センターに入る保険相談(中川) 資料4:私のマンションに保険は必要?(坂田) |
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1.「知っているようで知らないマンションの保険の話」 講師:マンション保険バスターズ 西澤 健之 氏 2.「消費生活センターに入る悩ましい保険の話」 講師:消費生活センター相談員(コミュニティ研究会理事) 中川 千恵子 氏 3.「私のマンションに保険は必要?」 講師:ビスタセーレ向陽台団地管理組合理事長(コミュニティ研究会理事) 坂田 英督 氏 第29回勉強会は、保険に関する話を取り上げました。約30名の方が来場し、冒頭の恒例自己紹介でも「あまり良くわからないので勉強に来た」とおっしゃる方が多くいらっしゃいました。保険は難しそうで勉強を先送りしているのは私だけではなかったようだと、少し安心しました・・・。 1.知っているようで知らないマンション保険の話(西澤健之氏) (1)「マンション保険バスターズ」とは 西澤氏が所属するマンション保険バスターズは、マンション保険専門の保険代理店として営業しています。マンション保険を専門に扱う代理店は希少です。管理会社に保険部門があり、その提案で保険契約するのが一般的だからです。福岡県マンション管理組合連合会からの声掛かりがきっかけでマンション保険を扱い始め、当初はマンション特有の用語や仕組みに戸惑ったものの詳しくなるにつれ、保険の専門家ではないマンション管理会社が勧める保険の不備や請求漏れが多発している状況に気が付き、マンション保険に特化することになったとのことでした。 本格的にマンション保険に取組んだ直後から、管理組合への提案は全て受注する好調が続いたそうです。そんなときに、ある管理組合から今の保険会社は保険金請求をまめにやってくれるので変更はしないとの理由で断れたとのこと。保険金請求が顧客引き留めるのに有効なことに気が付き、以降、保険金請求を一生懸命にやっているそうです。保険金請求が多い代理店は販売手数料が下がる仕組みですが、顧客の信頼を得て取引先を増やす営業スタイルで臨んでいるとのこと。 (2)マンションに必要な保険 マンション保険バスターズでは、自社の保険金請求の統計をとっています。それによると、保険金請求件数で一番多いのが、偶然の事故による破損・汚損でした。専有部分からの漏水が2番目で、次いで漏水原因調査となっています。請求金額の多さで見ると、専有部分からの漏水による個人賠償が一番、漏水原因調査費用が二番目、偶然の事故による破損・汚損修理費用が三番となっています。 発生回数、請求金額いずれでも上位を占めるこれらの事故をカバーする保険(水漏れ原因調査費用特約、破損・汚損特約、個人賠償保険特約、施設賠償保険特約)は外せません。加えて、臨時費用特約と免責金額が少ない保険に入っておいたほうが良いとのことでした。 (3)「必要な保険」による支払事例 1)上階住戸からの水漏れ 上階住戸の専有部分の給排水管に不具合があった場合、その修理費用は上階住戸所有者の負担となります。一般的に原因個所の修理費用より、原因個所を特定する調査費用(剥がした床の復旧費用等)のほうが高額になります。漏水原因調査費用特約を付けていれば、調査に関わる費用が支払われます。個人賠償保険特約を付けていれば、下階住戸の漏水被害は上階住戸所有者が与えた損害として補償されます。 2)エントランスドアの締まりが悪くなった 蝶番が歪んでいたが、経年劣化によるものであれば、保険金は出ません。加害者不明の外傷であれば破損・汚損特約で修理費用が補償されます。外傷の加害者が判明した場合は、加害者に賠償を求めるべきものとして保険金は出ません。 3)ベランダからの落下物で下に駐車中の自動車が損傷 落下元の住戸居住者が加害者として賠償すべきものです。個人賠償保険特約が付いていれば、保険金が出ます。個人賠償保険は加害居住者が請求するものなので、それが特定できないと支払われません。「損害額が全て個人賠償保険で賄われる」と言えば、加害居住者が名乗り出やすいでしょう。個人賠償保険特約に免責があると免責額が加害居住者負担となるので、名乗り出ることは期待できません。名乗り出ないと犯人探しが始まり、マンション内の人間関係悪化が起こりがちだそうです。 4)台風による飛来物でベランダ手摺が損傷した 天災は免責です。台風は天災に該当するので、それが原因の損害には保険金は出ません。台風ではない強風によるものであれば、施設賠償保険特約で保険金が出ます。 5)臨時費用特約の効果 臨時費用特約は、支払保険金の一定割合の金額を見舞金として上乗せする特約です。損害額の全額が補償される場合は儲けとなりますが、100%補償されるとは限りません。マンションが落雷を受け、電波障害用設備を介して近隣住宅の機器も故障した場合、マンション共用部分の被害しか補償されません。近隣住戸へ与えた被害は対象外でも+αの見舞金を賠償に回せます。 6)免責5万円の弊害 保険金請求件数で一番多いのが偶然の事故による破損・汚損ですが、これは請求額順では3番目です。ということは、1件当たりの請求金額が低いということ。1件当たりの平均額は約89,000円。平均値の損害額の場合、免責5万円で39,000円しか出ません。損害の半額も出ないケースが多いということです。 (4)厳しさを増す保険会社の引受姿勢 漏水事故はマンションが古くなるほど発生する可能性が高くなりますが、現在は築年数により保険料率が変わる仕組みはありません。老朽化による漏水を保険でモグラたたき的に修繕している管理組合もあるようです。そのため、保険会社は保険の引受を厳しくする方向に動いています。具体的には、今年の10月以降、多くの保険会社が築25年以上のマンションの引受を止めます。引き受ける所でも、免責10万円や単年度契約かつ事前照会(過去の保険金支払い実績等を考慮して引受けるか否かを事前審査する)を求めます。築20年以降のマンションについても、長期契約不可や事前照会要、一部特約を廃止するなどでお奨めの保険が今年10月からはなくなります。保険料金の比較だけで頻繁に保険会社を変更したり、請求の多い管理組合は事前照会の審査が厳しくなるでしょう。長期保険加入計画を策定し、漏水事故を減らす計画的な修繕の実施が求められます。 2.消費生活センターに入る悩ましい保険の相談(中川千恵子氏) 「保険が使える」という住宅修理サービスのトラブルが増加しています。2013年度、707件の相談がありましたが、これは3年前(2010年度)の6倍を超える件数だそうです。 訪問や電話で業者から「ただで修繕工事ができる」との勧誘をうけ、言われるままに調査に応じると、高額の修理見積りを作成して保険会社へ保険金を請求するように言われます。保険金は見積額の100%が下りるとは限りません。業者は、下りた保険金の額で工事するので自己負担はゼロと言って見積もり作成時点で工事契約するよう求めます。このような手口に乗ってしまい、後に保険会社への請求をしなかったり、おかしな仕組みと感じて解約を申し出て、高額の違約金を要求されたとか、「すでに着手しているので損害賠償請求してやる」といったいやがらせを受けたという相談があるそうです。 これらの相談が、消費生活センターにとってなぜ悩ましいのか。端的に言えば、相談者が犯罪行為に加担している可能性があるからと私は解釈しました。本来は、保険会社に連絡してから業者見積もりを取るべきものですが、業者に言われて請求申請を始めるというのは順番が逆です。消費生活センターとしては相談者が完全な被害者であれば救いようもあるのでしょうが、このケースでは相談者が保険会社にとっての加害者になっているかもしれないあたりが悩ましいところでしょう。 正当な保険金請求は、きちんと実施すべきですが、勧誘する業者の説明が正しいとは限りません。消費者側も正しい保険の使い方を理解しておく必要があります。中川氏からは、マンションでは専有部分に関する保険も必要であり、管理組合が組合員向けに保険の勉強会を開催してはどうかという提案がありました。勉強会は、単にそのテーマの知識をつけるのみならず、参加者同士の交流によるコミュニティ活性化を図る機会にもなります。 3.私のマンションに保険は必要?(坂田英督氏) 坂田氏が理事長を務める多摩ニュータウン「ビスタセーレ向陽台団地」の概要説明から始まりました。築20年、7棟160戸、5〜6階建。管理費約15,000円/月。団地共用部分の積立金は1,000円/戸。各棟修繕積立金は初期入居3年目に値上げして110〜150円/m2程度。マンションすまい・る債の残高は約5.8億円で25年度末の受取利息は税引き後で約650万円とのこと。 先ず火災保険については、耐火構造のマンションにおける火災は極めて少なく、もし起きたとしても修繕積立金が十分あるので、それで対応すればよいとの考えです。そもそも20年間保険に加入していれば2千万円以上支払い済だった訳ですから、2千万円は組合が保険会社に成り代わって自らに支払ってもよい筈です。 次に地震保険については、7棟から成る団地の、各棟の構造、形状、地盤から地震保険の必要性を検証されていました。それに加え、立地地域の建物倒壊危険度、地盤の揺れ易さ、近隣の立川断層の状況、さらには東日本大震災における仙台市での地震保険査定状況を考慮すると、団地全体で地震保険に加入する必要はないとのことでした。特に7棟中4棟は壁構造、長方形、切土地盤で耐震性が高く、耐震性が一番弱いと考えられるラーメン構造の1棟も、地震保険の査定は「一部損」以下と想定しているとのこと。 もちろん、万が一のことも考えた上での結論で、地震や火災の被害、その他施設賠償責任保険の補償対象となる事故があったとしても積立金が十分あるので対応できる。個人賠償責任保険は組合員が各自で加入するよう徹底するという対策をとっているそうです。当然、水漏れをはじめとする老朽化に起因する事故が起こらないよう、修繕工事は調査の上、計画的に実施する予定です。 きちんとメンテナンスされているマンションと管理不十分なマンションが同一に扱われる保険料金制度に対する不満は、私も同感です。 ところで、そうは言っても「戸当り年間8千円程度なら入ってもいいかな?」と迷いもあると言うことです。一方、西澤氏のお話では、築20年超のマンションは保険に入ることができなくなるとのこと。保険会社がそう言うなら、「マンション保険になど入ってやるものか」と言いたいと、坂田氏でした。 坂田氏のマンションはここまで考慮しているから保険は不要なのであって、積立金不足や耐震強度に懸念があるマンションの保険加入は坂田氏も推奨しています。また昨今、温暖化に伴い台風や竜巻被害の危険が増しています。マンションの将来を見据え、漫然と保険に入るのではなく、自分のマンションが直面しそうなリスクをよく考えて検討することが必要です。 【Q&A】 1.Q:漏水事故対策として、高圧洗浄を拒否する者の住戸で排水管から漏水が起きた場合は個人賠償責任保険を使わせないペナルティを設けて協力を促したいのだが、可能か? A:個人賠償責任保険は加害者個人が請求権者なので、当該住戸の居住者から請求があれば支払う。管理組合からの要請で支払いを止める方法は規定されていないので、そのようなことは出来ない。(西澤氏) 2.Q:管理会社の社員が保険の説明をすることに問題はないのか? A:保険の販売には、保険募集の資格が必要(保険業法)。このため複数商品の比較説明や特定商品の推奨は無資格の人は出来ない。(西澤氏) 保険を取り扱う管理会社は、概ね社員に募集資格を取得させている。(中川氏) 3.Q:地震保険には入っていない。積立金の手持ちがないので保険には入りたい。管理組合が勉強していく必要性を感じた。 A:再調達価格に応じた保険金額を検討することにより保険金額は下げられる。マンション全体の保険金額が2億として地震保険は1億となる。地震以外で2億の損害は起きたことはなく、せいぜい1〜2千万円である。それを下げると地震保険も下がってしまう。そこで地震保険が不要なら、保険金額を下げる検討をされると良いと思う(但し以下6を参照)。 4.Q:20年で入れないのは特約のことか? A:火災保険そのものが駄目となる。保険会社が建物の診断をする能力を持たないので機械的に年数で決めることになる。一部の保険会社で、水濡れ原因調査費用と個人賠償責任保険を含まなければ引き受けるというところもあるが、統計によればそれを引き受けなければ請求できる事故は半分以下になるので、引き受け不可と同じではないかと考える。 5.Q:マンションは火災保険に上限設定ができない。団地内全ての建物が滅失するほどの地震は起こらない。工場向けには、各建物の損害額のうち最大の金額を支払い上限として工場内全ての建物被害を補償する保険があるが、団地型マンション向けにこのような保険を売り出す考えはないか? A:支払い限度額設定はマンション向けには無い。マンション向け保険は、棟毎に契約するしかない。一棟単位で契約すれば高くなると思う。(西澤氏) 6.Q:再調達価格に下限はないのか?また、高経年マンションを保険に入れないようにすることについて、行政はどのように見ているのか? A:再調達価格が5億として60%の付保割合だと3億が保険金額となる。平均的には概ねその位と思う。付保割合を100%で契約している組合、30%や20%で契約している組合もある。そのことに問題はない。但し再調達価格は適切に算定しておくべき。また、付保割合を下げすぎても保険料は安くならないので、あまり意味がない。行政の指導の有無は不明。25年以上のマンションを全て保険に入れないわけではなく、抜け道(継続なら可、水濡れ等を除く等々)も用意されてはいる。今後、漏水に特化したものなど新たな商品を業界では検討している。(西澤氏) (記録担当:大滝純志) |
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西澤氏 講演の模様 | |||||||
西澤氏 | 中川氏 | ||||||
坂田氏 講演の模様 | |||||||
質疑応答 司会:栗原 |