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2014.03.20 月島区民館 | |||||||
講師:花牟禮 幸隆さん |
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資料 「外断熱改修で省エネ、居住性アップ、長寿命化の実現」 講師:多摩ニュータウン エステート鶴巻4・5住宅 大規模修繕実行委員 花牟禮(はなむれ) 幸隆氏 第26回勉強会は、約40名の出席者の恒例の簡単な自己紹介を行った後、「外断熱改修で省エネ、居住性アップ、長寿化の実現」として、東京都多摩市のエステート鶴牧4・5住宅で行われた外断熱改修を中心とした省エネ改修の概要や背景などについて、当住宅管理組合の大規模修繕専門委員として改修実施に携わられた、一級建築士の花牟禮 幸隆氏をお迎えしお話していただいた。 まずは、エステート鶴牧4・5住宅の概要を、立地する多摩ニュータウンのコンセプト、住み心地を絡めて紹介していただいた。 多摩ニュータウンの都市計画において、まずグリーンゾーンの街区を形成し、その中に住宅を配していくという構想で開発され、団地に隣接する緑地は桜並木になっていて中央に富士山が眺められる。その周辺に低層の集合住宅が散らばるという恵まれた環境にある団地で、この環境を守りたいと考え、それがきっかけで大規模修繕に関わることになった。 前回の第2回目の大規模修繕が終わった直後から、10年後の第3回目の大規模修繕に向けて、その費用の確保方法の検討を始め、合わせて、団地がどうあるべきかを折に触れて話して来た。 理事会などで理事が交替するたびに、オリエンテーションなどで団地の将来を考えることの大切さを語ることで、10年間に100人以上の人に話すことができ、団地内に、これからの姿がどうあるべきかを考えなければという雰囲気ができて来た。 こういった状況下で今回第3回目の大規模修繕工事を、平成25年2月から約1年かけて実施した。 団地は2〜5階建29棟356戸からなり、築30年を経過し、「建替え」という漠然とした意識も芽生えはじめて来たが、十分な資金を積み立てることも、この地域で保留床を多く作り売却して行くことも困難だと思われる現実がある。 この住環境を守っていくことを考えないと資産価値の維持ができない。 また、一つだけの団地がよくなることを考えても駄目で、地域全体がよくなっていかないと、価値を保っていけないと感じている。 団地のもつ課題として、様々な住戸タイプがあることもあったが、居住者の高齢化、建物の高経年化が大きい。そうした状況の下、団地の価値を維持して行くためには、良質な住環境と住性能、外部環境を保ち、向上させ続けるような改修を行い、若年層にとって当団地の中古物件への魅力が高まるような改修を行う必要を皆が感じ、方向性がまとまっていった。 新しく入って来る人にも、居住継続する人にも安心して住み続けられることを考えることで、団地の将来像が描けると考えられる。これをコンセプトとすることで改修の仕方を考えることができ、トラブルを解決する判断材料にもつながる。共用部の性能向上、維持管理費の低コスト化、修繕周期の延長を考え改修を進めることがポイント。それは建物の共有部にとどまらず、屋外共用や専有部についても言えること。そのための合意形成への環境を整えていく必要がある。 ここで、今回の大規模修繕を行うに当たって、合意形成をどう進めてきたかを振り返ると、第2回目の大規模修繕の後、7〜8年前から、配管工事実施の際の説明会など色々な機会に前述のようなことを話し、団地のもつ課題、居住者の高齢化、機能の高齢化の影響等皆で考える機会を作って来た。 たとえば高齢化の影響では、管理組合の機動力の低下から、補修工事が業者任せになったり、場当たり的な対応になったりで住環境の悪化につながっていくということがある。 住環境の悪化は急に進めばわかるが緩慢に進むと見過ごされてしまう。そして資産価値の低下につながり、居住者が離れていく。この繰り返しがスラム化につながっていく。 これを避けるためには団地の活性化をしなければならない。 場当たり的な対応や毎年の理事会の判断のばらつきを避けるために管理区分の明確化が必要で、築30年になると例えば配管類では補修するにしても、「更新」を念頭に置いた改修が必要になると、居住者の皆さんに話して来た。 過去の経験を生かし、処理を効率化するシステムが必要で、現在、団地図面の電子化を進めている。 また、修繕履歴を年度単位から住戸単位に組み替えている。住戸で検索すれば修繕履歴がわかるシステム作りを行っている。同時に団地のコミュニティを大事にしたい。顔が見え、考え方を理解し合えることが必要で、これから何をやっていくかを話し合える環境作りが必要。5年から7年経ってこの素地ができてきた。 次に、今回の省CO2先導型事業の枠組みを使った背景については、国交省、経産省、環境省が、住宅の省CO2政策として2020年には新築住宅に義務化するであろう省エネ性能に、既存の団地も将来競える性能を保持しなければならないと考えることと、既存住宅の省エネ改修への助成があったことが挙げられる。 今回の助成は、改修にかかる費用の30〜50%で、既存の低層共同住宅の改修を行うためのものではなく、改修のビジネスモデルを作ることへの助成で、最初に行うから意義のあるもの。 当初の補助金募集の際には、採択されなかった場合の費用負担への不安から無理と判断し応募を見送ったが、2回目の募集で長谷工リフォーム様との共同提案として応募し採択された。 改修の内容は、外壁、屋根の外断熱改修、サッシの二重窓化、照明のLED化(これは不採用となった)、高圧一括受電とスマートメーター取付けによる省エネの見える化の提案で、この効果を検証して、これを周辺の団地にも今後拡大して行こうというものであった。 結果として平成25年度2回目の募集32件中採択10件、共同住宅としては4件中の1件として採択された。 今回の大規模修繕については、平成23年7月に実行委員会を発足し検討を始めたもので、第2回目の大規模修繕から期間が短いのは屋根の漏水事故が複数発生したため前倒しに計画し実施したもの。 屋根の葺き替え工事の必要にせまられ、折角足場をかけるなら外壁も前倒しでと言うことになったが、前倒しに実施する以上何らかの(外壁の)延命策が必要ということになり、その対策が外断熱であった。 外断熱により外壁の修繕周期が30年くらいに延ばせる。実は第2回目の大規模修繕の際に外断熱の検討があったが、当時は検討の結果、費用の点で見送った経緯がある。 今回の第3回目でも、外断熱を採用することを最初から目指したものでなく、こういった工法もあるという紹介と、今後はこういうことも検討が必要になるだろうということで、平成24年3月頃から外断熱の見学会の実施や、モデル棟でのシミュレーションを行った。 平成24年7月の施工業者公募にあたっては外断熱がいいことはわかっているが費用がどれだけかかるかわからないとのことで外断熱の導入は考えず、(1)外断熱、(2)従来工法の外壁塗装と屋根葺き替え、(3)屋根葺き替えだけの3パターンでの見積を実施した結果は、外断熱ではそれだけで業者間の差が4億円と開きが大きく信頼性に乏しかったことと、組合予算からの乖離が大きかったので一度は(3)の屋根葺き替えだけに確定した。 平成24年9月の施工会社2社のヒアリングという段階で、長谷工リフォーム様から共同事業としての応募の提案があり、ここから非常に速いペースで事態が進展して行った。 一旦修繕委員会で不可とした方針を、理事会ではこのチャンスはなかなかないので応募しようということで可決(9月20日)し、9月28日の締切間際で応募した。 採択通知があったのが12月14日で、この間は粛々と従前の決定に従い準備を進めた。補助額(50%の満額)が決定したのが12月27日で、2月に着工しないと補助金の交付が受けられないことから、修繕委員会、理事会での可決(1月6日)、補助金の申請(1月18日、総会は通る前提で申請を先に実施)、臨時総会(1月27日)、金融機構借入申込と、急なテンポで手続を進めた。 総会は議案を(念のため)特別決議(3/4で可決)としたため、当日参加者の半数が賛成しないと通らない状態で、事前に反対者の説得を行い、結果356戸中反対25票で可決した。 金融機構融資は直ちに工事に充てるものでなく、手元の準備資金として3.5億円を都の利子補給を受け実質0.24%で借り入れた。 進捗状況は、「大規模修繕ニュース」を発行し、居住者に伝えていたが、当初は外断熱を見送った形で掲載していた。11月末の段階で初めて「新たな展開があった」として外断熱工事のことを掲載、12月21日付で補助金を受けられることは決定したが金額は未定として発行。一番大きかったニュースは1月24日発行のもので説明会の質疑や言い足りなかったことすべてをQ&Aとして掲載したものだった。 この号で、外断熱導入のメリットとして、居室空間の温度差の解消、壁、窓の結露の解消、カビによる健康被害の防止、躯体の長寿命化が図れることがあることを説明。 また、補助金を受ける結果、この工事を通常仕様の外壁塗装工事と同レベルで実施でき、次回以降の大規模修繕で発生する既存の塗装を剥がすための無駄な支出3.5億円程度を削減できること。平成30年には約5億円の資金を留保できること等を、漫画も含めて、十分に解説、これを臨時総会の3日前に配布できたことが今回の大規模修繕につながったのだと考えている。 今回の工事施工の概要については、外壁は透湿性のある断熱材を躯体の上に樹脂モルタルを使って全て手作業で貼り付けを行い、その上にグラスファイバーのメッシュを張り、さらにフィニッシュコートを行っている。 屋根は既存の断熱材を残し、その上に40oの新たな断熱材を張ることで若干屋根が高くなりいろいろな調整が必要になった。 インナーサッシを採用した理由は、既存のサッシはいずれ交換しなければいけない状態なので、ガラスだけを真空ガラスに交換しても効率的でないため。 また、検討した高圧一括受電は、全員賛成や、団地型で一般の方式と異なり設備費用がネックになり実現できなかったが、スマートメーターによる電力の見える化を行った。 建物の長寿命化が図れる理由は、断熱材貼り付けにより外壁が空気に触れなくなりコンクリートの中性化が防げること、温度変化が小さいことで躯体コンクリートの膨張、収縮が抑えられることによる。 外壁の温度は現在実測中だが、場所による温度差が小さくなった。暖房もあまり使う必要がなくなった実感がある。 年間の冷暖房にかかる費用が約半分になる見込みで、全戸の従前と工事後のデータを計測中で、3年間調査し、まとめる予定。 躯体の長寿命化は築30年の現況で残り45年と言われていたものが残り90年に延びた。健康に与える影響も期待できるが調査は難しい、という内容であった。 工事の状況を写真で説明していただき講演をまとめていただいた。 合意形成の基盤を作るための約10年間の努力と、今回の綱渡りのような補助金がらみのスケジュールをこなされた苦労が伝わってくる内容であった。 Q 結局高圧一括受電はやらなかったのですか? A 実施しなかった。省エネには電力の見える化が有効で高圧一括受電そのものの効果は期待できないからで、あらかじめ補助対象にはしなかった。 Q インナーサッシをつけるスペースがない場合はどうしたのか? A 住戸のタイプが色々あり、個別対応を行ったケースもある。 Q 借入の期間は? A 7年ぐらい。 Q 合意形成について、今回の改修は1/2の普通決議で可能だったのでは? A 普通決議で可能だと思うが、外壁の仕様の大きな変更もあり、また反対意見もあったのであえてハードルを高くして臨んだ。 Q 外断熱改修にかかった費用は戸当たりでどれくらいか? A 戸当たり100万円程度(が、通常の大規模修繕に上乗せになる)。 |
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花牟禮先生 | |||||||
花牟禮先生と廣田代表 |