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2013.02.28
月島区民館
なぜ耐震診断・耐震改修は進まないのか

マンション管理士 中川 千恵子氏

資料
 いつものように冒頭、参加者の簡単な自己紹介から始まった。管理組合、管理会社、住宅供給公社、日経記者、マン管新聞記者、耐震診断改修のプロ、マンション管理士等総勢50名を超え、過去最高となった。
 特に、参加が初めての人、北海道から名古屋まで地方からの人が多いことが目立った。テーマがタイムリーであり、失敗事例から考えるというユニークさが、関心を呼んだのかも知れない。
 講師の中川千恵子氏は、当会の会員(マンション管理士)でもあり、消費生活アドバイザーもやっておられ、今回は、5年間の管理会社勤務の体験からのお話であった。成功例からのセミナーは多くあるが、失敗例を話す人はまずいない、という前置きをしながら、ある管理組合の耐震診断実施のサポートを行ったが、その後の改修工事は頓挫したということを、敢えて失敗と言いながら、その失敗をどうすれば成功に導くことができるのか考える機会にしたい、ということがお話の主旨であった。

 当該マンションは、都内約100戸、8階建、ピロティ形式、旧耐震ギリギリの1981年5月申請、83年6月竣工のファミリータイプである。
 2003年、初めて理事会で検討されたが、「耐震診断を行っても、結果が良くなかった場合、売買の際の重要事項説明書に記載しなければならないので、資産価値が落ちる。」(旧耐震は黒かグレイにしかならない?)ということから、5年後に再検討となった。
 ところが、2007年の能登半島地震、新潟沖地震をきっかけに、ピロティ形式は問題と理事会で提起され、検討された。耐震診断をどこに依頼したら良いか、東京都のセミナーで確認すると、自治体の相談窓口に行くように言われたが、当時は自治体側に準備が整っていなかった。

 2008年、理事会では次のような検討を行った。
a:収入アップに向けた取組み → 駐車場への転換
b:大規模修繕工事はどうするか → 劣化診断を行いながら耐震診断も一緒にできないかc:耐震診断の費用 → 600万円という見積り
 しかし、
d:構造計算書がない(200万円UP)
e:第三者認定(200万円UP)
f:東京都は補助を出すというが、実際は各自治体に任され、マンションは対象外という壁が立ちはだかった。検討の末、第三者認定は取らずに800万円で耐震診断を行うことを決議した。

 2009年、予備診断(100万円)後、本診断(800万円)実施、3回の説明会も行った。診断結果は、1階ピロティ部分はさほど問題はなかったが、西側2〜4階の10戸位が極端に低い値でアンバランスな結果が出た(該当する住戸は大ショック)。
 耐震改修設計費用(1,000万円)、改修工事費用(1.5〜2億円)が予想された。

 その後、理事長退任、修繕委員会立上げ、公募するも応募者2名、理事長変更で路線も変更、管理会社として新旧理事長の板挟み、さらに、依頼した診断業者が倒産、その後他人のやった構造計算では設計できないなどと、業者選びが難航した。
 前理事長の強いリーダーシップに頼り過ぎ、引き継ぐ人物もいなく、自治体の補助体制もなかった。改修を予定しないで診断して良いのか、悩みが尽きなかった。

 もし話が進んでいたとしたら(a)IS値が極端に低い住戸の改修をどのように行うのか、(b)改修期間に他を賃借する場合その費用を誰が持つのか、(c)改修後の外観や日当たりで合意が得られるのか、(d)耐震改修より大規模改修を望む声が多いのではないか(耐震改修自体意味があるのか)、(e)高額な費用負担は賛否両論、などの問題点が予想され、やはり大きな困難が伴ったと思う。

 以上の結果を踏まえ、耐震診断から耐震改修まで成功させるには、最初に予算ありき、どんな問題点があっても絶対やるという決意が必要。防災委員会の設置と改修までのエネルギーをいかに持続させるかがポイントとなる。そのために防災マニュアル作成から開始する。老若男女委員を広く公募、耐震勉強会、防災イベント(炊出し、芋煮会、運動会、スタンプラリー等)を行い、マニュアルの検証と訓練の積み重ねることである。つまり、お金、人材、時間の3つが重要である。

意見交換:
(1)神奈川県の状況は?
 補助金制度を採っているのは4市のみ、やっている所でも申請は少ない(1桁台)。
(2)静岡県の状況は?
 まだまだ意識は低い。
(3)北海道の状況は?
 函館では減災を主旨に行政は進めている。
(4)成功事例は?
 志賀先生の指導で改修をしたことがある。東日本大震災でも大丈夫だった。志賀マップと言い、統計に基づいて強いか弱いかを判断する。壁量と柱量と被害が比例関係にあることから診断し、壁・柱を増やし厚くする。耐震診断に金を掛けるよりも改修を優先する。(5)専門家の意見1
 X方向、Y方向のチェックは必要。ベテランのコンサルタントを選ぶことが重要。構造計算は安いが、図面がない場合はかなりの費用が掛かる。
(6)専門家の意見2
 旧耐震と新耐震で被害に差はあるが大差ではない。地盤強度も大きな要素であり立地で状況が異なるためである。合意形成や費用対効果の点では、完全な耐震改修ではなく、低層階やピロティ等を補強し倒壊しない程度とする、現実的な耐震改修も検討に値する。
(7)耐震診断を行うと重要事項説明で不利?
 耐震診断の義務付けを前提にすると、診断を行うことによって、仲介の評価が違ってくる。買う人は耐震に関心を持っている。
 資産価値と強さは別の話だという意見もあり。
(8)マスコミとしてはこう思う
 マンションは、費用対効果の点でまだ評価が出ていない。行政の方で参考になるデータが出せないのか。また、改修技術をもっと普及すべし。
(9)診断業者が倒産した件
 補助金を得るために第三者認定(構造計算書のチェック)を通って改修を進めることになる。設計業者と連続性があった方が良い。使っている構造計算ソフトの入力方法に違いがあるので、やりたがらないのだろう。しかし、耐震診断と耐震設計は別々でやった経験がある。耐震工事をどうするか今考えているところ。
(10)意識は変って来ているがなかなか進まない。合意形成する上で役立ったことは? タイルが剥がれてもダメ、0か100かの議論ではなく、壊れ方の程度のシミュレーションを行う。どの位壊れるということが数字で出るので、段階的に補強が可能。これも合意形成のひとつの方法。
 また、最大限の情報開示と繰り返しのわかり易い説明が重要。
(11)成功しているところは理事長が頑張っていると言われているが?
 理事長は3〜5年続けて頂くとよい。
(12)管理会社としての対応
 地震によって自分のマンションがどういう被害を受けるかシミュレーションの上、マニュアルを整備する。関心のあるマンションと、そうでないマンションがある。また、連続性と継続性を保ち、優秀なコンサルタントを選ぶよう心掛けている。

(記録担当:中西博)