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2016.04.22 
千葉大学西千葉キャンパスけやき会館
 
日本マンション学会2016千葉大会 市民シンポジウム
マンションを世代を超えて住みつなぐ知恵

【第一部】
基調講演「次の世代を見据えた長期修繕計画の試み」
 〜大規模修繕工事の周期延長と暮らしの改善〜
 一級建築士 藤木亮介
【第二部】
事例発表とパネルディスカッション
<事例発表>
1.「建替えから再生へ次世代入居を目指し環境整備を」
 稲毛海岸三丁目団地管理組合(千葉市)理事長 久保田 博
2.「管理をコミュニティの融合と世代交代のしくみ」
 夢海の街管理組合(浦安市)理事長 渡邊 賢
3.「管理組合主体による高齢者支援の仕組みづくり」
 サンライトパストラル六番街(松戸市)高齢者支援委員会委員長 中西 博
<パネルディスカッション>
 「マンションを世代を超えて住みつなぐのに必要なこと」
 パネリスト:久保田 博・渡邊 賢・中西 博・藤木亮介
 コーディネーター:廣田信子

司会:大滝純志(千葉県マンション管理士会)
開会挨拶:小出重夫(千葉県マンション管理組合協議会会長)
まとめ:平沢 修(2016千葉大会実行副委員長)
閉会挨拶:赤祖父克介(千葉県マンション管理士会会長)

資料:マンションを世代を超えて住みつなぐ知恵
案内:日本マンション学会2016千葉大会
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2016.04.22千葉大学けやき会館

「マンションを世代を超えて住みつなぐ知恵」
日本マンション学会 2016千葉大会 市民シンポジウム

 日本マンション学会は、毎年、学術大会を開催しています。今年は、千葉大学を会場として開催されることになり、昨年5月に実行委員会が組織されました。
 千葉県のマンション管理関係団体からメンバーが選出され、マンションコミュニティ研究会(以下「コミ研」)から廣田代表(コミ研の事務局住所は千葉県浦安市なんです)と片山理事・大滝理事(千葉県マンション管理士会)の3名が参加しました。
 8月以降ワーキンググループ(以下「WG」)による本格的な開催準備を進め、平成28(2016)年4月22日(金)〜24日(日)に盛大に開催できました。
 コミ研メンバー3名は、このうち22日夜に開催した「市民フォーラム」の企画・運営に関わり、コミ研第43回勉強会を兼ねる位置付で取組みました。

 会場の千葉大学けやき会館のホールは320席もある規模で、集客は大きな課題でした。企画・運営に参加した各団体が広報に努め、当日は約230名の方々が参加していただけました。学会会員と非会員が、ほぼ半数ずつという内訳でした。


 シンポジウムは18時に千葉市マンション管理組合協議会の小出重夫会長の挨拶で開会しました。続いて、コミ研廣田代表が主旨説明を行いました。
【主旨説明概要】
 高経年マンションでは終の棲家にしたいと思う居住者比率が高い傾向にありますが、次世代に住みつなぐことまでは考えていないのがまだ一般的です。「住みつなぐ」というマインド無くしてマンション再生の合意形成を進まないと思います。そこで、今回の市民シンポジウムは、具体的にそのマインドをどう育てるかを考えます。
 第一部の基調講演では限られた資金を有効に使って新たな価値を生み出すための再生プラン共有をテーマに取り上げます。
 第二部は企画・運営に参加した団体が推薦する3マンションから取組み事例を発表していただき、パネルディスカッションにつなげます。


 第一部基調講演は、マンション学会関東支部副支部長で一級建築士の藤木亮介氏が「次の世代を見据えた長期修繕計画の試み(副題:大規模修繕工事の周期延長と暮らしの改善)」と題して講演しました。

【基調講演概要】
 住みつないでいけるマンションを長期修繕計画の視点から考えます。長期修繕計画は過去・現状・将来の3つのポイントから見ます。

1.過去から見た長期修繕計画
 過去の設備改修や大規模修繕の工事実績は建物の重要な情報です。どのようなスケジュールで実施したかの振返りは今後の工事スケジュールの参考になります。また、保証年限等を記録することで、定期点検期間や保証期間を共有することが出来ます。「タイルの補修数量が多かった」等の工事状況や次回工事への注意点の記録などは、管理上の財産です。

2.現状から考える長期修繕計画
 大規模修繕工事の周期を伸ばすことで、長期的な修繕費用を削減できる可能性があります。ただし、周期延伸に耐える下地補修や外壁塗装を施す必要があるので、1回の工事費用は高くなります。
 一般的に言われる大規模修繕周期は10年〜15年です。そこで、40年の間に大規模修繕を13年周期で3回実施するケースと18年周期で2回実施するケースを比較してみると、工事費が13年周期の1.38倍以内であれば18年周期のほうが有利との試算結果を得ました。
 あるマンションで実際に劣化状況を調査して18年周期対応の工事仕様を作成して見積もったところ、13年周期の1.15倍だったという実績があります。

3.将来を見据えた長期修繕計画
 より良い環境で住みつないでいくためには、環境改善工事が重要です。長期修繕計画に盛り込む資産価値向上策として、郵便受けなどの金物類の交換、玄関扉・アルミサッシなどの交換、鋼製手すりなどのアルミ手すりへの交換、防災用井戸の設置などがあります。 しかし、具体的な計画として長期修繕計画に盛り込み難い改善工事もあります。エントランスへのアプローチや植栽など外溝周りの改善、耐震計画、コミュニティルームの増設、ソーラ発電設備の設置・・・などは必要性に対する個人差が大きいので、合意形成なく長期修繕計画に盛り込むと揉める元となる恐れがあります。
 とは言え、将来起こりえる暮らしの劣化とその対策を考えるおくことは必要です。このような事項は、「費用算定には盛り込まないが積極に検討が望まれる計画」としてまとめ、長期修繕計画と合わせて課題として提起することを奨めます。


第二部前半は、住みつなぐための3マンションでの取組み事例発表です。

○事例1
 「建替えから再生へ次世代入居を目指し環境整備を」と題して、千葉市の「稲毛海岸三丁目団地管理組合」の久保田博理事長が発表しました。この事例は、千葉市マンション管理組合協議会が推薦した事例です。
【事例概要】
 1968年築(築年数48年)、768戸のマンションです。
 1989年に建替問題検討委員会を発足させ、建替えを推進していました。
 1995年には「建替え事業基本計画案」を臨時総会にかけ96%の承認を取付けるまでに進みましたが、直後デベロッパーから計画中断の申し入れがあり(バブル崩壊のため)、建替え計画は白紙撤回となりました。
 その後、区分所有法第62条による法定建替えによる建替えに方針を変え検討を続け、2000年の総会に自己負担平均額250万円の建替え議案を諮りましたが決議は不成立となり、足かけ12年におよび建替え計画は終止符を打ちました。
 その後も建替え問題研究会が存続していましたが、築40年を迎えたのを機に再度建替えに向けた準備をするのか、修繕や改修を進めるのかを検討すべく、2008年に「再生検討委員会」を発足させました。その翌年に建替えか修繕かの意向アンケートを実施したところ、建替え57.2%・修繕42.8%でした。その結果を受けて(建替え決議が成立する比率ではないので)修繕による再生で長寿命化を目指す方針に変更しました。
 そして、築70年(その時点から30年先まで)の存続を目標に修繕計画を見直し、平均4千円の積立金値上げを総会決議しました。さらに2015年には築80年まで存続目標を延伸する修繕計画の見直しを実施して、今年1月に総額11億円(内6億円は借入金)で大規模修繕と窓サッシ等改修を行う工事の実施を決定しました。

○事例2
 「管理とコミュニティの融合と世代交代の仕組みづくり」と題して、浦安市の「夢海の街管理組合」の渡邊賢理事長が発表しました。この事例は浦安住宅管理組合連合会が推薦した事例です。
【事例概要】
 1994年築(築年数22年)、548戸のマンションです。管理組合に自治会機能を取り込む形で組織化され、5つの委員会があります。管理を担う広報委員会、園芸委員会、建築専門委員会とコミュニティを担う生活委員会(自治会)、防災対策委員会(自主防災組織)を従えて管理と自治会を一体運営しています。
 生活委員会では、実行委員会を組織して秋祭りを実施しています。他にも自由参加型で負担感が少ないイベントを開催し、住民同士が世代を超えたコミュニケーションを促進しています。
 建設専門委員会は、長期修繕や設備管理面で理事会をバックアップしています。そのため、理事会役員への就任打診に対しても安心感があって、応じることができました。
 理事会とコミュニティ担当の防災対策委員会と生活委員会には各棟から委員を出す制度としています。専門知識を持つ人が自発的に集まって組織する建築専門委員会や園芸委員会のバックアップが管理組合運営へ参加しやすくして、活動の継続性が担保されています。
 「夢海の街の住民は同じ船に乗った仲間!!」をキャッチフレーズに、コミュニティを楽しみながら平等に維持・管理していける環境にあります。

○事例3
 「管理組合主体による高齢者支援の仕組みづくり」と題して、松戸市の「サンライトパストラル六番街」高齢者支援委員会の中西博委員長が発表しました。この事例は、千葉県マンション管理士会が推薦した事例です。
【事例概要】
 築年数35年、296戸のマンションです。自治会はなく管理組合がコミュニティ活動も業務として担っています。高齢者支援委員会は、管理組合の総務部会配下の常設委員会として設置されました。
 行政(松戸市)も管理組合理事長宛に児童民生委員や国政調査員等の委託者推薦や掲示・配布物を送っており、管理組合を自治会と同様に扱っています。また、地区の大型マンションの管理組合が、自治会と同様の位置付けで町会連合会を組織しています。
 管理組合は、役員のなり手不足など高齢化問題が管理組合運営に与える影響に対応する必要があります。自治会機能をも持つ場合は、さらに、心身が衰えた高齢者の支援も考えなければなりません。役員のなり手不足は選出方法の改善で対応済でした。支援をどうするかという課題に対応するため2011年に高齢者支援委員会を設置しました。設立にあたり居住者から委員を公募して、民生委員経験者や成年後見人の会役員、マンション管理士といった有識者が参加しました。
 委員会の活動は、初年度を目的・目標を明確化する期間と位置付け、委員が持つ情報を集めて知恵を出し合いました。その結果、「高齢者が介護・診療に至る段階」の前までに支援対象を絞り、「ふれあいサロン」・「高齢者見守り支援」・「助け合いサービス」・「啓発・相談」の4つの業務を実施することを決め、2012年度から順次開始しています。
 今後は認知症や孤独死への対応も視野に入れていますが、まずは、管理組合として出来ることと出来ないことの線引きが必要です。出来ないことは民生委員や地域包括支援センターに取り次ぐなど地域の支援組織を活用する方法があります。行政に対する発言力を大きくするためにも、近隣自治会などのコミュニティと連携を拡大しています。自治会よりも利害関係が密接なマンションこそコミュニティの基本単位として率先して地域をリードすることが望まれます。


第二部後半のパネルディスカッションは、基調講演ならびに事例発表をしていただいた藤木氏、久保田氏、渡邊氏、中西氏をパネリストとしてコーディネーター廣田氏が進行役を務めました。
 事例発表したマンションでは、イベント開催や支援活動が管理組合業務とされていて、そこに居住者が参加することでコミュニティが推進されているという共通点があります。それが、入居間もない人(主に若い世代)が理事会役員を引き受けやすいなど、世代交代をスムーズにしていると思います。世代を超えた交流を図るコミュニティづくりが住みつながれるマンションへの近道ではないでしょうか。

 30分弱のパネルディスカッションに続き、2016千葉大会実行委員会の平澤修副委員長がシンポジウムをまとめました。
 最後に、千葉県マンション管理士会の赤祖父会長が挨拶して、20時に閉会しました。

以上
開会挨拶 小出重夫氏 基調講演 藤木亮介氏
事例発表1 久保田 博氏 藤木亮介氏・廣田信子氏
第二部の模様
事例発表2 渡邊 賢氏 事例発表3 中西 博氏
会場の模様
コーディネーター 廣田信子氏 パネリスト 藤木亮介氏
まとめ 平沢 修氏 閉会挨拶 赤祖父 克介氏