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2015.10.29
 月島区民館 
マンションの専有部分改修の未来戦略

繁治 寿 氏
 夢海の街管理組合(築21年)元理事長、建築委員
資料1

坂田 英督 氏
 ビスタセーレ向陽台(築22年)団地管理組合 前理事長
資料2

資料3
2015.10.29月島区民館

「マンションの専有部分改修の未来戦略」
講師:
夢海の街管理組合元理事長、建築専門委員長 繁治寿氏
多摩ニュータウンビスタセーレ向陽台団地管理組合前理事長 坂田英督氏

 第39回勉強会は、今年6月の第11回フォーラムで好評だった繁治氏のリフォーム対応と坂田氏の合意形成をさらに掘り下げて発表していただきました。
 今回の参加者は約30名が参加し、恒例の自己紹介で始まりました。

 前半は、繁治氏の「これからのリフォーム管理」と題した講演です。
 夢海の街は築21年546戸の団地です。リフォーム申請が年間100件を超えており、6年前に審査基準を制定するなど、管理組合が専有部分改修にも積極的に関与しています。マンションストック(中古マンション)市場は、年間15万戸の供給に対して取引が成立するのは10万戸という供給過剰の状態です。
 マンションの持続は、居住者の若返りが不可欠で若年層が住みたい(買いたい)と思う魅力創りが必要です。そのために、建物維持にとどまらず生活上の利便性や人間関係等ソフト面の満足度をも高め、それを発信していかなければなりません。その担い手は管理組合自身しかないと考え、専有部分のリフォームも夢海の街の魅力創りの機会と捉えています。

 理事会でリフォーム申請に対する許可をすることは一般的ですが、通常、共有部分への悪影響排除や他の居住者に迷惑をかけないようにといった規制的な姿勢で臨みます。しかし、夢海の街管理組合では、建築基準法の遵守や住宅履歴情報蓄積などの管理を強化して、居住者が安心して住める品質の確保、それに伴う流通市場での価値向上を図ることを狙って、リフォームを促進しています。

 リフォームは、申請から完了報告、必要により検査・是正まで理事会(実働は建築専門委員会)が管理しています。リフォーム申請の書類作成責任は居住者ではなく業者に負わせています。
 さらに、工事着工前に業者に工事届けの提出義務も負わせています。完了報告では必要に応じて写真等の添付を義務付けや検査を実施します。これらのことがキッチリと出来ない業者に対しては、以後の申請を認めないとする罰則を設けることで、工事の質向上を図っています。
 また、管理組合と区分所有者の管理すべき境界や双方がどこまでの補修・工事ができるといった管理区分、申請や検査の合格基準を明確化するための設計基準や技術条件を制定しています。
 基準や条件を制定するにも専門知識が必要ですが、今後のリフォーム管理を遂行する人もこれらを理解できる専門家でなければなりません。今は繁治氏が管理に携わっているのですが、将来を見越し管理を委託できる設計事務所を探しているとのことでした。

 満足できるリフォームを追求すると、サッシや玄関ドアなど一般的に共用となっている部分を交換したいとの要望が出てきます。修繕積立金で一斉交換出来れば良いのですが、その合意形成は容易ではありません。自費でもやりたいという要望を単純に認めると、外観の統一性が崩れたり、修繕積立金の負担割合で後々揉める懸念があります。だからといって「出来ません」では要望する人の満足度は高まりません。
 そこで、「リフォームStageU」として、次回の大規模修繕を実施する平成28年3月を目標に、この課題への対策を建築専門委員会で検討しています。認める範囲や仕様の制定にとどまらず、統一感があるとはそもそもどのようなものかというコンセンサス作りにまで及ぶ大変な取組みです。先進的な取組みとして今後の成果を期待します。

【Q&A】
Q1:委託する設計事務所が見つからないので理事会で審査しているとのことだが、どのくらい時間がかかるのか?審査費用はもらっているか?
A1:通常審査は3〜4日ほど。特別な審査は費用を請求できる規約になっているが、過去に請求したことはない。
Q2:申請は工事の何日前までに出さなければならないのか?
A2:審査期間が最低2週間必要と言っている。その期間を見て申請を出してもらうことになる。


 後半は、坂田氏の「マンションを長期にわたって利用するために」と題した講演です。
 多摩ニュータウンビスタセーレ向陽台団地は7棟160戸、築22年のマンションです。
 築3年の1996と第1回大規模修繕工事直後の2006年の2度修繕積立金の値上げを実施しました(2度目に値上げしたのは2棟のみ)。
 入居時30円/u(登記面積ベース)だったのが149〜173円/uになっています。この額は世間相場並と思いますが、無駄金を使わなければ余裕のある額だと思っていました。
 余裕がないと良い提案も先送りとなる可能性が高まるので、将来のためには少し多い位が良いと考えます。また、若いうちに積み立てておくことも肝要です。
 組合員への説明のためには、1長期修繕計画を策定し、2マンション管理センターに簡易な長期修繕計画策定を依頼し、3周辺団地の積立金を調査しましたが、結局は月1万円位ならば合意できるだろうという理事会での検討結果により額を決めました。

 2000年に受水槽・ポンプ室を撤去して水道を直結供給に変更しました。都水道局に協議すると、多摩ニュータウンでは直結供給は5階までが基準だと言われました。しかし、水圧を測ると、ビスタセーレ向陽台団地の最高階の6階まで届きそうでした。
 そこで、6階建の3棟で水圧不足が発生したときは、当該3棟の負担で直結増圧に変更すること。及び、都水道局にも一筆書いて、直結供給(増圧しない)に変更する議案を提起しました。
 直結増圧に変更する場合が生じたとしても、従来の受水槽・ポンプ室を維持管理するより安いという検討結果もあり、反対ゼロで可決されました。次善の策まで検討しておくことも合意形成を進める上で大切です。

 坂田氏が実践している合意形成の極意は、「合意できそうなものを議案にする!」ことです。機械式2段駐車場を自走式駐車場に更改する検討も行いましたが、例え3/4で可決できたとしても否定的な意見が一定程度あることや、機械式駐車場更新の見積りが安かったのでその提案は止めた事例や、多摩ニュータウンの他団地の例で、建替え並みに困難な階段室型マンションのエレベータ設置提案等、理事会の意見を聴いたり一般組合員の日常会話から「機が熟していない」と感じたものは提案するべきではないという事案の紹介がありました。

 また、10年先20年先を考えて行動することも重要とのことです。今後20年程度先に予想される共用部分の給排水管改修は、二度と改修しなくても済む材料を使い、更新を前提に考えています。それまでの間、専有部分の給排水管を改修するときのガイドラインを策定しました。
 共用部分の給排水管改修時には、専有部分のそれも同時に改修することが必須です。
 しかし、浴室ユニット下の給排水管は、予め浴室ユニットを更新するときに同時に更新しておいて貰えたら極めて少ない費用で済むのに、改めて行うとなるとユニットを(一部または全部)解体しなければならない可能性が大です。
 個人で浴室ユニットを更新した直後に解体が必要だなどと言われたら、合意形成は難しくなるでしょう。それはキッチンシステムの更新でも同様で、予め専有部分の給排水管を更新しつつキッチンを更新しておけば、共用部分の工事の際、キッチンの脱着は不要になる可能性が高いのです。
 また、住戸内を這い回っている給水管は、フローリングの工事を行うときに同時に更新しておけば極めて少ない負担で済みますが、一旦工事したフローリングを、給水管だけのためにまた剥がすことは、頭では理解できても納得は得られにくいでしょう。
 ガイドラインの概要を添付しましたので参考にして戴けたらと思います。

 合意形成の集大成は総会の場での議決ですが、成否は日常の管理組合運営にあります。ビスタセーレ向陽台団地管理組合の理事会は2時間以内に終えるのを目標にしているとのことです。そのためには事前の資料配布や読込み等、理事会の場以外でもやりとりしています。さらに、広報の徹底や理事長のリーダーシップの重要性についても話が及びました。
 坂田氏は、共同体であるマンションでは概ね利害は一致しているものであり、決議は9割の賛成が得られなければ何かおかしいく、また、9割の賛成があれば、若干の反対意見があっても進むべきであると考え、全議案が特別決議でも良いと言っています。

 「このマンションに末永く住み続けたい」という思いを組合員に分かるように伝えれば、合意形成に悩むことはない。「伝わらないのは伝え方の問題」という姿勢が大切とのまとめに共感しました。

【Q&A】
Q1:坂田氏は全理事長とのことだが、今は管理組合運営にかかわっていないのか?
A1:専門員として今も参画している。但し、現理事会の運営をサポートする立場に徹し、アドバイスは行うが余計な口出しは控えている。

以上

廣田代表挨拶で開始
繁治 寿氏 
坂田 英督氏